シマノのロード用油圧ディスクブレーキに関するテクニカルレポートです。
先日ご依頼いただいたブリーディング作業に関してトラブルが発生。webで検索してもヒットしないレアケース事案だったので備忘録として記します。
【発生事案】
■ 対象モデル
・STIレバー:ST-R8070(ULTEGRA)
・キャリパー:BR-RX800(GRX)
※この組み合わせのみで発生するわけでは無いのであくまでも参考情報。
■ ブレーキ状態
・持ち込まれた時点でSTIレバー/キャリパーの動きに問題なし。
・ブリーディング前に古いオイルを抜くため、キャリパー側から注射器で吸い出すも真空状態になってオイルが出てこない。
■ 原因究明のための試行
・原因がどこなのか各パーツごとに検証開始。
1.キャリパー単体 → 問題なし
2.ホース単体 → 問題なし
3.レバー単体 → 検証できず
4.キャリパー+ホース → 問題なし
5.レバー+ホース → 問題発生(エアーすら通らない)
レバーが原因であることを突き止める。
※この時点でシマノに確認したかったのですが休日のため連絡できず。
■ 更に検証
① STIレバー取付バンドのボルトを緩める。
(ボルトが適正トルク以上で締まっていると内部を圧迫してオイルが通らないことがある。レバーの動きが渋くなる等の自覚症状が出ることも)
→ 今回は問題なし
② STIレバーのリーチアジャスターを回してあらゆる位置でブリーディングを試みる。
→ 全くオイルは通らず。
③ レバーとホースを何度も脱着しホースの差し込み角度を変えたりしてみる。
→ すると左STIレバーから僅かにオイルが抜けはじめ開通する。(…が通常のオイル量の1/5以下で作業完了までにかなりの時間を要した)
④ 右STIレバーは依然としてエアー/オイルともに通らず。しかしレバーを握るとキャリパー側からはオイルが押し出される。まさに一方通行状態。
⑤ STIレバーを外して内部洗浄やエアガンでエアーを通しても症状は改善せず。結局ショップレベルでやれることはやったのでシマノへの連絡待ちに。
後日シマノに確認したところ1点試してほしいとのこと
■ 検証②
ブラケット下部をめくったところにあるアジャストボルトを緩めてほしいとのこと。
こんなところにアジャストボルトがあったのか。マニュアルにも載ってない(確認不足でしたらすみません)じゃァないか。
シマノ曰くSTIレバーを極限までスリムにするため各パーツが密集した設計となり、ブリーディングに影響する内部のピストンシリンダーが塞がれることがあるらしい。
このアジャスターで微調整するそうだが…
→ 結果的に今回はこの調整でも解消されず、原因はピストンシリンダーもしくはそれ以外のパーツが変形して「弁」のようになってレバー側からはオイルが出るがキャリパー側からは入らない一方通行状態になっているらしい。
幸い保証期間内でしたのでレバー本体ごと交換対応してもらい無事ブリーディング完了できました。
余談ですが今回のトラブルを受け、ブリーディングキットを最新版に刷新しました。
さすが純正品だけあって価格は¥6,125(税込)とお高めですがかなり使いやすく改良されました。とくに注射器のホース先端にコネクトピンが装備されたことでキャリパーからホースが抜けることが無くなりました。
ブリーディングできない症状にお悩みの方の参考になれば幸いです。
情報提供:長野 自転車 スポーツサイクル ブリーディング CYCLE INFINITY